福島第一原発ALPS処理水放出への反応に対して福島県民の私が感じる違和感の正体

中国国内から福島市役所、小・中学校、国内の飲食店、ホテルなどへ福島第一原発ALPS処理水放出に対する抗議の電話が相次いでいるといいます。

スマホの日本語翻訳機を使い、それを読み上げさせるものを電話口に出た日本人に聞かせたり、『こんにちは』などの簡単な日本語であいさつをし、中国語に切り替えて話すなど中国国内でその様子が撮影された動画が出回っているそうです。

こちらの記事では福島県民と福島県外に住む日本人の放射線や福島県そのものに対するイメージの違いを書きました。

この記事では中国等の海外の反応や国内の妙な主張に対して福島県民の私が感じる違和感について書きます。

福島県民は着々と除染作業が進むにつれ不安も恐怖も無くなり出来事自体忘れた

というのが7年ぶりに福島県に戻って5年間暮らしている私の感覚です。

私は2011年から2017年まで福島県福島市から山形県山形市へ自主避難兼転勤として福島県外で暮らしていました。

きっかけは『週刊誌による原発の危険性』の記事に煽られ、当時2歳の長女の人生を考えてのことでした。

確かに、2011年3月の事故の直後は『今後福島県はチェルノブイリみたいに人が住めなくなるのではないか?』という不安の中で、私自身は山形市でのお店の出店の準備もあったため2011年6月には山形市に移住しました。

その後、本社である福島県の動向を気にしながらも山形での仕事に没頭していきました。私の中では最も混乱と不安のピークにあったその2011年3月~5月の三か月間のイメージのまま福島に対する不安感は温存されていました。

福島県内では東電が福島県民の不安と補償の請求額を抑えるためか『放射線はそんなに怖くない』という趣旨の展示コーナーなどが設けられていました。

私も一度行ったことがあります。『レントゲンで使われるX線』『昔の一般家庭で置かれていた時計の蛍光塗料』『線量の高い温泉』などにも放射線は含まれておりそもそも『地球の赤道付近は常に線量が高い』という資料やパネルが置かれていました。

私が避難して1年後くらいだったと思います。幼い子供背負いながらそれらの展示を『東電の野郎言い訳しやがって』という気持ちで見る前も見た後も感じていました。

福島県内では小学校などに放射線量の数値が分かる電子パネルが置かれ、朝晩の地元テレビでは県内全域の数値がまるで天気予報のように表示されていました。

2018年から福島県郡山市に住み始めました。その頃はまだ除染作業も終わり切ってはおらず、各学校や公園に設置してある放射線量計も作動していました。報道上の放射線量はもうその時点で自然に存在している放射線量と変わらない数値にまで下がっておりあまり気にしなくなっていました。

2023年現在、除染作業によって、その敷地を掘って埋めた除染土壌たちは、全て掘り返され、仮処分場に運び出され、空いた穴も以前よりきれいな状態で埋めもどされています。放射線量の情報など一切流れておらず、誰も気にすることもなく暮らしています。

12年経って福島県民とそれ以外の人で放射線に対する意識が極端に乖離した

2011年3以降、福島県内の情報を最も得ているのは福島県民です。自分たち自身の生活と人生に直結するため不安と闘いながら暮らしてきました。

放射線量の数値化とその低下の過程に触れ続け、更には現実社会で具体的な放射線による被害が起きていないことを体感として感じ続けています。

しかし、福島県外の国内、更には海外の人は果たしてどの程度放射線に関する知識を持っているのでしょうか?

ゼロ知識で『福島第一原発汚染水排出』という単語だけ見ると確かに恐怖を感じることでしょう。

そもそも放射線での事故や問題は起きておらず、今回のALPS処理水はトリチウム以外の核を取り除いたものであり世界中の原発ではより多くのトリチウムが排出されています

ある意味において、東京都が筆頭株主である東京電力の福島県民に対する沈静化と情報公開は上手く行ったかもしれません。

そのプロセスで2011年3月直後に国内から受けていた上記のようなクレームも少しずつ減り、完全に無くなり、個別の補償は継続し、実際に飛び散った放射線を含む汚染土壌はなるべく原発に近い場所に集め、明らかに鎮静化してきていました。

ところがこのALPS処理水放出、2018年から福島県に住んでいる私もその計画を認識出来ていませんでした。

ひょっとすると強制避難エリアの元住民の方々などへはアナウンスがあったのかもしれません。

間違いなく福島県の漁港関係者は知っていたはずです。

福島の漁業を絡められている発信に対する違和感の根拠は現状の理解度の差

これまでは基本的に事故当時放射線が飛んだエリアの福島県民の心を落ち着かせるために全てがなされてきました。

今回は海です。その影響範囲は広く見れば海でつながる全世界ということになります。

福島県の漁業の実態について発信する前に、強制避難のエリアについてよく知る必要があります。

私は自主避難者でしたが『強制避難』の範囲内の人たちはまさしく強制的に避難させられました。自分の意志ではありません。

強制避難エリアは事故後に少しずつ変更されました。

今でこそこの範囲ですが初期最大は原発地点から半径30kmでした。

この時点で原発の近くで漁業を営むこと自体出来なくなりました。

震災は何も原発事故が起きたわけではなく、地震により東日本の海岸線の漁港は大きく壊れ、未だに水揚げ高は回復しきっていません。

福島県に関してはそもそも2割、震災前の20%までしか売上が回復していません。

強制避難エリアに指定された場所で漁業は不可能です。物理的に福島県で漁業を行える場所はそもそも無くなっています、12年前から。

福島の漁港関係者に対する心配の声を交えた自己主張が多く見られますが、大変大きなお世話であり、その類の発信そのものが福島を貶めています。

福島第一原発事故付近で漁業を行っていた人たちの中で、その後一切の漁業が行えなくなった人がいたとした場合、少なくない補償金が既に支払われています。

今回の処理水排出のためにも、日本政府は風評被害対策費用として300億円、漁業の継続支援の費用として500億円が準備されています。

(私は強制避難の当事者ではないためその方々の具体的な補償内容までは存じ上げませんがハッキリと言える補償内容は『医療保険』『介護保険』に関しては今もゼロ割負担になっています。通常はどちらも1割~3割の自己負担割合というものが存在していますが高齢者向けの施設探しのお手伝いを本業としていますのでよく接する状態の方は住民票上の住所は『浪江町』『双葉町』『富岡町』などのままにしながら別の都市で暮らしています。)

福島県では漁業は既にあまり行われていません。行われているのはかなり離れた場所に限定されています。

誰に心配されずとも公平か否か、納得しているか否かは抜きにして漁業関係者へは上記の対応が既になせれています。

異常に短絡的な割に説得力や正義感だけ感じる『福島の漁業を考えろ』という趣旨の発信は

到底この辺の状況を把握した上でされているとも思えなければ、受け止めてももらえていないように感じます。

本当に心配なのであれば黙って消費して健康であることを伝えて欲しいです。

風評被害への警告そのものが大きな風評被害を生んでいることを強く意識してほしいです。

東電と日本は近隣関係者以外へは説明責任が無いと感じてしまう環境にあった

が高いと言わざるを得ません。放射線の実際がどうであるかという真実以上に、そもそも

2011年3月の頃のままの恐怖と知識しかない人にとって

同じ海で繋がった場所に突然危険を感じるものが流されるという事実は受け入れがたいのかもしれません。

その土地そのものに降り注いだ福島県民が直接的に放射線の被害を受けることは明白であり、それを東京電力が無くすプロセスで

福島県民にはこの12年間で非常に細かな対応と情報の共有がなされました。

その結果、福島県民は忘れて生活できるところにまで辿り着いています。

私は元々福島県民ではありません。東京から福島県に結婚のために転職、引っ越し、出産、避難、離婚を経験した、1人の中年男性です。

離婚に伴い私は子供と生活していません。それでもどうしても、私は福島県民を守りたいです。

その方法は闘うということではなく、情報の共有です。

多くの人にこの記事を読んでいただきたいとも思いますが、一番やるべきことは

日本がこの12年間の福島県民に対して与えた情報を世界中で共有すること

です。最も不安を感じていた福島県民にとって放射線そのものはもはや遠い存在になっています。

これは大変良いことです。

しかし、この12年間のプロセスで進んだ除染作業に伴う福島県民感情の沈静化が完全に油断を生みました。

海外だけではなく福島県外に住む日本人のほとんどが毎日放射線量が減り続けたことも知らず、その数値の放射線が生活の中で既に触れている上に問題が起きていいないことも分からず、ただただ2011年3月に感じた恐怖を無知のままに生活しています。

この知識と意識のズレの存在に福島県民も日本国政府も東京電力も全く気付いていないことが大問題です。

風評被害とは

根拠のない噂のために受ける被害。 特に、事件や事故が発生した際、不適切な報道がなされたために、本来は無関係であるはずの人々や団体までもが受ける損害のこと。

です。これ以上福島県が貶められることに関して私は黙るつもりはありません。

しかし闘うつもりもありません。

世界的な相互理解は情報の共有をもってなされると信じています。

事故時に放射線が福島県内に飛びました。その当事者に向き合うことだけはやってきました。

ALPS処理水の放出先は全世界です。

今すぐにでも当時の福島県民に対するものと同等の責任を持って全世界に対して向き合うべきです。

何年かかったとしても、今後福島県がネガティブなイメージを持たれなくなる日が来ることを願っています。

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