相続登記義務化に備えるべきポイント(2024年4月1日開始)

2024年4月1日から相続によって所有者が変わった不動産の登記手続きの義務化が開始します。
不動産コンサルティングマスターの筆者がそのポイントを解説します。

①なぜ登記を義務化するのか?そもそも義務ではなかったのか?

日本の所有者不明土地は日本全体で、九州の面積を超える約410万ヘクタールにも及ぶと言われています。誰のものであるかが分からない土地が平成30年時点でこれほどあり、放置すると今後も増え続けてしまいます。
わたしは2015年ころから相続に関する勉強を始めました。この所有者不明土地に関する情報を知った時点で『登記を義務化すれば所有者不明土地が少なくなるだろうな』と思っていました。
東日本大震災後、福島県内で汚染処理土壌の処分場を決めることに難航しました。
理由:候補地の1坪に150人くらいの推定相続人がいて確認のしようがない
からです。

誰かの土地であった場所も、その所有者が亡くなると、その配偶者と子供たちが推定相続人になります。
仮にこの家系図のおじいちゃんがその土地の所有者だった場合、亡くなった後にはその配偶者であるおばあちゃんが1/2
こどもが1/4ずつの所有権を持ちます。
更にその1/4を持つ子供が亡くなるとその配偶者とそのこどもたちが、左側の家系では配偶者1/8こどもたちが1/24ずつ
右側の家系は配偶者1/8こどもたちが1/16ずつ
それぞれ結婚離婚などすると…
数えきれないほど所有者が無限増殖してしまいます

こうなってしまう状況にありながら、何故登記行為が義務ではなかったのでしょうか?
それは、登記はあくまで権利を主張するための行為だからです
『ここはわたしの不動産です』『その不動産を担保にお金を貸しているのはわたしです』『それはこういう面積の土地です』『建物の構造は木造です』など権利を主張するのはその所有者の自由ではあっても義務ではありません。
登記をしていても不動産の使用には支障ありませんし、登記を行うためには費用も発生するため全く使われていない不動産に関しては誰も積極的に登記をしないことは自然な話かもしれません。

日本は終戦後、極端に人口が増えました。それに伴い、住宅が急速に不足しました。昭和40年代に作られた、『土地の固定資産税の軽減措置』はそのために作られた制度で、未だに適用されています。宅地に建物が建っていると土地の固定資産税が1/6に抑えられる制度です。これにより、その家が使われているか否か抜きにして、『更地にすると損』という情報だけが日本人の心にインプットされています。そのために、あれほど不足していたはずの住宅も、今や800万戸を超える空き家が発生しています。
空き家の増殖を防ぐための制度は、この相続不動産の登記義務化以外にも近年いろいろと制度ができています。

特に自分が住んでいない不動産、その後親族が使わない、売らない、そもそも親族がいない方が持っていた不動産は、
所有権を主張したい人もいません。ですので積極的に登記手続きが行われることがありませんでした。また、別に住むところがある人にとっては、売ろうとしない限り建物も建ってくれていた方が土地の固定資産税が安く済むため放置されがちでした。

②2024年4月1日からの相続登記義務化、いつまで?罰則は?

2024年4月1日から相続登記の義務化が始まります。これを行わなかった場合、10万円の過料が発生します。
原則、取得を知った日から『3年以内』に登記を行う必要があります。
2024年4月1日よりも前に発生した相続に関する所有権移転に関しても同じく義務の対象となり、2027年3月31日までに登記を完了しなければなりません。

ずっと一人っ子が続いていた家系でしたら必要ないかもしれませんが、所有権者が複数いる場合には『遺産分割協議書』を作成する必要があります。その場合には、遺産分割協議書ができてから3年以内に相続登記を行うことになります。
原則は、相続による取得を知った日から3年以内が期限です。その前までに遺産分割協議書の作成が間に合わない場合には、『相続人申告登記』を行うことにより、過料請求を回避できます。相続人申告登記は相続人が複数存在する場合でも、特定の相続人が単独で申し出できます。
それにも費用は発生してしまうため、通常に所有権の特定と登記を3年以内に行おうとして出来なかった場合の逃げ道として考えておいた方がいいと思います。

③不動産の調べ方

登記簿謄本を法務局で取得するためには、その土地・建物の地番を知る必要があります。

地番を簡単に知る方法としては、固定資産税納税通知書を確認することです。

伊丹市HPより

または、法務局に備えつけてあるブルーマップを確認します

ゼンリンHPより

青い数字が地番です

その上で、法務局の窓口で登記事項証明書を申請します

法務省HP

しかしこのブルーマップも完璧ではありません。欲しい地番とズレる場合があります。
その時はおおよそのあたりをつけて公図を取得してください。

このようなものが出てきます。一つの不動産に一つだけの地番がついている訳ではありません。
繰り返すと費用が多きくかかってしまうかもしれませんが、調べるためには必要なことです。

全て、現金で支払うわけではなく、収入印紙で支払う形になります。
法務局内に印紙売さばき所がありますのでそちらで各種書類にかかる費用分の印紙を購入し、それを貼り付けて納入します。

登記事項証明書(登記簿謄本)土地建物 各 600円
地図情報等(公図)          各 450円

なかなかお金がかかってしまいますね。

④相続において分割協議よりも大事なことはありません

相続時には大なり小なり揉めることがあると思います。決して、大金持ちが相続で争っているわけではありません。気を付けなればならないことは誰に何を分けるかです。
こちらのデータをご覧ください。

令和4年(2022年)度遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)―遺産の内容別遺産の価額別―全家庭裁判所データ(統計局HP)

相続のときに揉めると、裁判所に相談するわけです。こちらのデータは、それぞれの被相続人が持っていた遺産の価格と件数のデータです。
全体で6606件そのうち、1000万円以下と5000万円以下の合計が5231件で、全体の約79%です
遺産額が少ないところの方が圧倒的に揉めています。

揉めている限り相続登記を義務化したとしてもそれに応えることは、事情によっては難しいです。
揉めていれば3年などあっという間に経過してしまいます。
そんな間にも相続人に死亡などが発生してしまうと、また関係者が増えます。

まずは現状を把握、共有し、その不動産の権利者を特定しましょう。もう逃げにくい状況です。その上で、さらに将来発生する相続に備えていくことが、所有者不明土地の発生防止に役立ち、社会にとっても素晴らしいことです。

⑤まとめ

・登記は相続開始から3年以内
・現名義の調査は固定資産税納税通知書と法務局
・関係者との話し合い(遺産額の大小は無関係)
・その後の相続に備える

今回の記事では『その後に備える』という部分について深く掘り下げることはできませんでした。これからも老後と相続に関する情報を発信してまいります。
なるべくスムーズにあなたの資産が承継されることを祈念しています。

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